国立大学の附属病院に課せられた使命と経営基盤の安定化について

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1.国立大学の附属病院に課せられた使命
国立大学の附属病院は、民間病院等と異なり、多くの使命を果たすことを期待されており、本学の附属病院においても様々な努力の下、以下のような使命を果たしています。

(1)医師等の人材育成機能
○ 大学病院は、本来、大学設置基準に基づいて設置された「教育?研究を行う医学部の附属施設」であり、そこで行われる医療は、医師の卒前?卒後教育のためにも重大な使命を帯びていることから、必要な診療領域に係る臨床医学分野とそれに対応する診療科が設置されています。
○ 民間病院で行われている経営を優先する診療科の設置?改廃を大学病院は出来ません。
○ 教員?指導医等の多くは、日常の診療のみならず大学院の本来の使命である教育?研究を行い新しい医療に向けた活動を行っており、診療以外にも多くのエネルギーと時間を注いでいます。

(2)地域医療の中核病院(?最後の砦?)として
○ 附属病院を受診する患者様の多くは、熊本圏内のみならず九州内の広い地域の他の病院からの紹介された方です。従って、合併症度の高い難病や、治療の難しい病気の患者様が多数を占めます。
○ その様な患者様の治療には、最新の高度な医療機器が求められます。必然的に多額な設備投資が必要となります。
○ 合併症度が高い難治性疾患の治療には、長い在院日数や多額な医療資源投入などが必要になります。この様な高度で患者様に手厚い治療は、現行医療制度では採算がとれません。
○ ?都道府県がん診療連携拠点病院?、?エイズ診療中核拠点病院?等、厚生労働省や熊本県の医療政策の実行要請に協力していますが、予算措置は十分ではなく、本学の病院経費を充当せざるを得ない状況です。
○ 研修医や専門医の地域循環型の研修システム等、地域医療体制の確立という使命も担っています。

(3)臨床医学研究
○ 医学部の附属施設である大学病院には、次世代の良き医療を開発する為に多くの臨床研究や実験的治療、治験等の実施が求められています。
本学では、医学部、生命系研究センター等における基礎医学研究と連携して、がん治療やエイズ治療等において、世界トップクラスの実績をあげてきています。
○ これらの研究の成果を実践可能な次世代医療、高度先進医療として確立し、その新しい医療が正式に承認を受けるためには継続的な支援と投資を行うことは不可欠です。
○ これらの活動を支える為の医業収入を増やす努力を継続的に行っています。現場の医師?教員は、教育?研究の時間を削って診療時間を増加させざるを得ない状況に追い込まれています。
このため、これまで我国の医学教育が達成してきた高水準の医療に赤信号が灯りつつあり、医師養成機能の低下や臨床研究論文の減少を生み、臨床医学の国際競争力を低下させつつあります。事実、(社)国立大学協会の分析に寄れば、世界全体の臨床医学の論文数が7%増えたにもかかわらず、日本全体の論文数は10%低下し、国際競争力は17%低下したとのデータが示されています( 資料1参照(PDF) )。


2.経営基盤の現状
(1)経営改善係数(△2%/年)
国立大学の附属病院は、「国立大学法人化」により、平成17年度から「△2%の経営改善係数」が累積で課せられています。本学の附属病院では毎年2.84億円の運営費交付金が削減され、第一期中期目標期間の最終年度である平成21年度の削減額は△14.2億円に達します。
この額を収支差で生み出すには約20億円の増収が必要になりますが、民間企業においても、このような継続的な増収は至難なことではないでしょうか。医療水準、サービス、教育、研究活動を維持しつつ、これだけ多額の増収を地域の患者様から得ることは、ほとんど不可能なことと言わざるを得ません。

(2)診療報酬点数のマイナス改定
診療報酬点数については、隔年で改定されていますが、平成14年度以降はマイナス改定が続き、「平成18年度は△3.16%」となり、本学の平成18年度の影響額は△5.7億円に相当します。

これらに対応すべく、本学を含むすべての国立大学の附属病院は収入改善や経費節減に努力していますが、このような経営改善努力にも自ずと限界があります( 資料2参照(PDF) )。本質的に国民の皆様、地域の皆様により良い医療サービス、優れた医療を提供する為には単なる経営上の観点のみでは論じられるべきものではありません。

平成22年度から始まる次期中期目標期間においても、「経営改善係数」や「診療報酬のマイナス改定」が継続されれば、「臨床医学の国際競争力の低下」はもとより、「地域医療」ひいては「国の医療」の崩壊という『負のスパイラル』への道を突き進み、市民、県民、国民の健康、医療への影響が強く危惧されます。

今後も、国立大学の附属病院に課せられた使命を果たし続けていくためには、経営基盤の安定化が不可欠であり、これに対する国からの財政的支援無くしては実現不可能です。

関係者の皆様のご理解を切にお願いいたします。




平成20年1月30日
国立大学法人熊本大学
崎元達郎
学長



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096-342-3206