学生と共に、大学の技術を社会貢献につなげる

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点字学習の初めの一歩に、大学の技術を活用

image02.jpg 健児くん(以下:◆):全国の盲学校に点字を習うための機械を寄贈されたそうですが、どのような機械なのですか?
須惠:点字機器というと点字タイプライターがありますが、これは昔からあるタイプライターと同じ仕組みで、キーを押すと点字が刻印されるというものです。聞こえてくるのはキーを押す音だけで、紙が出てきて触って初めて自分が正しく点字を打てたかがわかるし、そもそも点字を学ぶ段階の生徒がこれを使っても、難しくて点字が嫌になりかねません。私たちが制作したのは、その前段階で、指使いをわかりやすく楽しく学ぶための機器です。おもちゃのピアノのようになった鍵盤を押すと、1を押せば「あ」、1と2を押せば「い」という音を出してくれます。『おしゃべり点字タイプ』と名付け、まずは熊本盲学校の小学生3人に1台ずつ、その後、全国68の盲学校に1台ずつ寄贈することができました。
制作のきっかけは、大学の技術系職員の発表会で山口大学の方が全盲の方のために学習機器を制作しておられる話を聞いたこと。大学の中だけでなく、技術を社会に向けて使う人がいることに刺激を受け、自分に何ができるか考えました。まずは熊本の盲学校に飛び込みで電話。最初はとても緊張しました。でも、一度現場を見てみてくださいと言われお訪ねすると、教職員の方が集まる場を設けていてくださいました。そこで、全盲のお子さんに、平面や空間、物の並び方、時間の進み方などの概念を言葉で教えるご苦労や工夫を伺いました。最初はどんなお手伝いができるかすらわからなかったのですが、音声が出る点字習得機があれば???、と聞き、それならと、『おしゃべり点字タイプ』制作に至りました。

学生たちを成長させる、子どもたちの喜ぶ姿

image03.jpg ◆:『おしゃべり点字タイプ』以外にもいろいろあるようです。
須惠:動く突起を触ることで時間の概念を養う『音声式触読タイマー』や、九州の各県にあるボタンを押すと、県の形が県名の音声付で飛び出すようになっているポップアップ地図があります。それから、ピンを点字の形にさすとその音が出るようになっている『おしゃべり6ピン点字器』は、いろいろな使い方ができると思いますが、基本的には『おしゃべり点字タイプ』を使う前の小さなお子さんが音遊び感覚で点字を学べるようにしています。
◆:制作には、学生さんたちの力が大きいそうですね。
須惠:約20名が所属するサークルの学生たちが主体となって活動しています。最初に『おしゃべり点字タイプ』を作った時は、私たち職員が技術指導をして学生が制作し 、熊本盲学校の小学生3人にクリスマスプレゼントとして贈りました。子どもたちの喜びように学生たちが感激して「先生、来年もやりましょう」と、後輩を連れてきて製作チームを作ってくれたんです。 それが、今のサークルの母体です。研究室ではないから論文が書けるわけでもないのに、みんな一生懸命です。今年度は学内プロジェクトの3つに採択され、学生自ら予算を獲得して点字学習機器制作に取り組んでくれました。  夏休みには、高校生を対象にしたものづくり講習会を開催。これも学生たちが高校生に作り方を指導して行っています。3回目となる今年度は『おしゃべり6ピン点字器』を作ってもらいました。盲学校の子どもたちが喜んでくれることがうれしくて、2年連続で参加した高校生もいて、ものづくりや将来を考えるいい機会にもなると考えています。 image04.jpg

大学の技術を、企業と盲学校の懸け橋に

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◆:大学の技術を直接地域に活かす、すばらしい地域貢献ですね。
須惠:点字が必要な全盲の方というのは実はそれほど多くないんです。ということは、企業が商品として開発するには数が少なすぎる。そういう部分に役立てるのは、幅広い仕事ができる大学だと思います。地域貢献であり、かつ、学生たちの学びにもなる。そのどちらかが欠けていては、プラスになるものは生み出せません。4年生の学生が、面接で『おしゃべり点字タイプ』の話をしたことで覚えてもらえ、見事就職を決めた例も。この取り組みの最初の2年は私が行う制作セミナーという形でしたが、3年目からは学生が自分たちで作りたいということで、私はアドバイザーという立場。学生のアレンジで新しい機器の開発にも取り組んでいます。学生たちを見ていて、開発力が身についたなと感じます。
また、忘れられないのは、最初に電話をかけた熊本盲学校の当時の教頭先生の言葉「世間が必要としていることなら、壁があってもなるようになる」。全国の盲学校に機器を寄贈することになったのは、盲学校の先生方が教育者の集まりで点字タイプを紹介して下さったことがきっかけ。何もかもバックアップしてくださり、道を拓いてくれたと感じています。
◆:今後の展望は?
須惠:社会貢献をしたいけれど良い機会がないという民間企業と、支援があれば助かる盲学校の間を、技術がある大学がつなぐのが理想です。「学生さんがやるんなら、お金は出すよ」と言って下さる地元企業の社長さんもいらっしゃいます。お金の部分をクリアすれば、みんながWin-Winの関係を作ることができる。それがしっかりとまわっていく、そんな仕組みを具現化していくことが来年度の目標です。
(2015年11月9日掲載)
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