高濃度シリケートナノシートの開発に成功 ー多機能材料として触媒、吸着剤、水素燃料電池材料などへの応用展開が期待ー

【ポイント】

  • 酸素とケイ素からなるシリケートナノシートの高濃度分散溶液と薄膜(自立膜)を開発することに成功しました。
  • シリケートナノシートは豊富に存在する元素を利用した持続可能な材料として、また、さまざまな機能をもつ多機能材料として今後利用が進むことが期待されます。
  • 開発したシリケートナノシート自立膜は、水素燃料電池のプロトン伝導膜として機能することを実証しました。

【概要説明】 

 熊本大学産業ナノマテリアル研究所の伊田進太郎教授らは、酸素(元素記号:O)とケイ素(元素記号:Si)からなる厚さ1ナノメートルのシリケートナノシートが高濃度で単層分散した「シリケートナノシートの分散溶液」の開発に成功しました。

 シリケートナノシートは、豊富に存在する元素を利用した持続可能な材料として、また、さまざまな機能をもつ多機能材料として工業触媒、吸着剤等の原料として利用が期待されています。また、研究グループは分散溶液を塗布?乾燥させることで、透明なシリケートナノ膜や自立膜を開発し、水素燃料電池の材料であるプロトン伝導膜として機能することを実証しました。

 本研究成果は熊本大学と日産化学株式会社との共同研究の成果として令和3年6月2日に英国王立化学会の科学雑誌「Chemical Commuinications」にweb掲載されました。

【説明】

 層状ポリケイ酸塩と呼ばれる化合物は、構成する原子が横方向に連鎖して板状の層を形成し、この板状の層を単位構造として残り一方向に数十~数千枚積み重なった結晶構造を有しています。このような層状ポリケイ酸塩化合物は、層間に様々なイオンや分子を可逆的に取り込むインターカレーションという性質を持っており、その層間に取り込まれたイオンや分子の大きさに応じて層間距離が変化します。さらに、特定の物質を用いると層と層の間で形成されていた結合が切断されるまで層間距離が拡大し、層状構造を形成していた各層(シリケート層)が単独で溶液中に分散した状態になります。

 このような層状構造の剥離によって形成されたシリケート材料は、シリケートナノシートとも呼ばれ、これまでにナノシートの分散溶液(ゾル)を製造する方法が報告されていました。しかしながら、高濃度のシリケートナノシートを得るためには、層状ポリケイ酸塩化合物の層を均一に、かつ、損傷させずに分散(層間剥離)させることが必要で、非常に難しいという課題がありました。安定的に分散させることができると、時間が経っても分散溶液中に沈殿物が堆積しませんが、分散性が悪くなると、沈殿物が堆積します。

 本研究では、RUB18と呼ばれる層状ポリケイ酸塩を効果的に剥離する手法を開発し、シリケートナノシートの分散溶液を得ることに成功しました。
 このようなシリケートナノシートは地球上の地殻中で最も存在比が大きい酸素(存在度:46.6%)と二番目に存在比が大きいケイ素(存在度:27.7%)から構成されているため、持続可能な社会の構築のために豊富で無害な元素による代替材料の開発を目指す元素戦略的に有望なナノ材料です。また、化学的に安定し、表面積が広いことから、多孔体や触媒等の原材料として利用できるだけでなく、造膜性、透明性、弾性(可撓性)、あるいはバリア性の内で一つ以上の機能が求められるインキ、塗料及びコート剤用のフィラーの原材料としても期待されます。

 さらに、今回、シリケートナノシートの自立膜は、水素燃料電池のプロトン(水素イオン)伝導膜として機能することも見出しました。出力は1平方センチメートルあたり、約10マイクロワットと低いですが、今後の改良によりさらなる出力向上も期待できます。本材料が持続可能社会の実現に貢献することを期待しています。

【論文情報】
論文名:Preparation of silicate nanosheets by delaminating RUB-18 for transparent, proton conducting membranes
著者:Keisuke Awaya, Kazutoshi Sekiguchi, Hirotake Kitagawa, Shuhei Yamada, Shintaro Ida* ?
掲載誌:Chemical Communications, Vol: 57, pp: 6304-6307 (2021)
doi:10.1039/D1CC02110A
URL:https://doi.org/10.1039/D1CC02110A

【詳細】

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担当:伊田 進太郎 教授
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