なぜ分子性液体の超高周波数振動の音速は 異常に速いのか?

(ポイント)

  • ?分子からなる液体中を、X線非弾性散乱から得られるような非常に高周波で振動するときの音速は、超音波を用いて測定した音速の値より50%以上も速くなります。
  • 今回新たに開発した解析方法では、X線非弾性散乱から得られる速い音速は、音波の振動の減衰効果に働く摩擦を明らかにすることができます。
  • 今回データの解析を行った四塩化炭素では、速い粘性緩和は分子内部の振動に、遅い粘性緩和は分子の回転にエネルギーを奪われることを、そのピコ秒程度の緩和時間が一致することで確かめました。
  • 今回の結果は、アセトン、ベンゼンなどの他の分子性液体にも共通して見られる速い音速にも適用できます。

【概要説明】

  熊本大学産業ナノマテリアル研究所の細川伸也特任教授は、福岡大学理学部の吉田亨次准教授と協力して、簡単な分子からなる四塩化炭素(CCl4)の液体を対象として行ったX線非弾性散乱(IXS)(注1)に見られる非常に「速い音速(注2)」の起源を明らかにしました。CCl4液体では、IXSで得られる音速は超音波で得られる一般的な音速と比較しておよそ57%も異常に速くなっています。この研究では、IXSで得られたデータの詳細な解析を行い、音速の異常な速さは分子内部の振動運動と分子の回転運動によってエネルギーが失われることによることがわかりました。これは、分子の振動方程式に含まれる減衰項に含まれる記憶関数の2つの粘弾性の緩和時間について、速い方は分子内部の振動の、遅い方は分子全体の回転運動の緩和時間とほぼ一致していることで示されています。この結果はCCl4液体に限らず、液体アセトンや液体ベンゼンなどの分子の作る液体(分子性液体)に一般的に見られる「速い音速」の起源は同じであることも、別のIXS研究から明らかになりました。この研究は、放射光X線や中性子を用いた、一見難しそうに思われる実験結果が、大学学部1年次程度の力学で学ぶ基礎的な減衰振動(注3)の考えで解き表すことができることを示しています。今回の研究では、これまでブラック?ボックスになっていたIXSスペクトルが示す分子性液体の速い音速の謎を、データ解析を慎重に行うことで、分子の振動運動や回転運動と結びつけることができた画期的な業績と言えます。
 本研究は、文部科学省科学研究費補助金?学術変革領域研究(A)「超秩序構造科学」および基盤研究(C)、科学技術振興機構CRESTの支援を受けて実施されたもので、科学雑誌「Journal of Molecular Liquids」に令和5年12月23日に掲載されました。

【今後の展開】 

 これまでIXSあるいは中性子非弾性散乱測定で得られていたスペクトルの解析は、格子振動の励起エネルギーやそのピーク幅を求めるための経験的なモデル関数を用いてきたため、求まるパラメータがどのように粘弾性などの物性に結びつくかを探求することは、ともすればないがしろになっていたと思われます。
 今後、最も典型的な分子性液体である水のIXS測定は既に行っていますので、同様の考え方で解析ができれば、より現実の生活に基づいた研究が実現すると考えています。また解析手法としては、粘弾性緩和のチャンネルの数を増やすことで、それぞれの振動モードに一つ一つ対応した緩和を記憶関数に導入することが可能です。そのような研究を行うためには、より統計精度が良く、よりエネルギー分解能の優れたIXS実験を行うことが必要と思われます。SPring-8の新しいビームラインBL43LXUを用いるのが最善であろうと考えられます。

【論文情報】

論文名:Improved data analysis for molecular dynamics in liquid CCl4
著者:Shinya Hosokawa and Koji Yoshida
掲載誌:Journal of Molecular Liquids
DOI:https://doi.org/10.1016/j.molliq.2023.123828
URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0167732223026351?via%3Dihub

【詳細】 プレスリリース(PDF581KB)

icon.png????  sdg_icon_04_ja_2.png

<熊本大学SDGs宣言>

お問い合わせ
熊本大学大学総務部総務課広報戦略室
電話:096-342-3271
E-mail:sos-koho※jimu.kumamoto-u.ac.jp

(※を@に置き換えてください)