老化細胞による炎症促進を担う酵素「ACLY」の発見-ACLY阻害が加齢に伴う慢性炎症を改善する-

【ポイント】

  • 身体を構成する細胞は、その増殖を持続的に停止し、細胞老化に至ります。炎症性タンパク質を合成?分泌して全身の老化を促進しますが、そのメカニズムは明らかではありませんでした。
  • ACLYはクエン酸からアセチルCoAを合成する酵素として、細胞代謝および遺伝子の働きを調節しますが、老化との関わりは知られていません。
  • 老化細胞においてACLYの量が増加すること、また、ACLYを阻害すると炎症性タンパク質の遺伝子の働きとヒストンのアセチル化が低下して、炎症反応が抑制されることが分かりました。
  • ACLYおよびアセチル化ヒストン結合タンパク質BRD4の経路で、老化細胞による炎症反応が促進されることが明らかになり、この経路の阻害が加齢による慢性炎症の制御法(セノスタティクス)になると期待されます。
    【概要説明】

 熊本大学発生医学研究所 細胞医学分野の衛藤 貫特任助教、中尾光善教授らは、網羅的な遺伝子解析を用いて、老化細胞による炎症反応を促進する酵素とその阻害効果を初めて発見しました。「ACLY※1」は細胞内でクエン酸からアセチルCoAを合成する代謝酵素で、細胞の活動と遺伝子の働きを調節することが知られています。今回、老化細胞※2においてACLYの量が増加すること、また、老化細胞でACLYを阻害すると炎症性タンパク質の遺伝子の働きが強く抑制されることが分かりました。ACLYによって合成されたアセチルCoAは炎症性タンパク質の遺伝子を活性化するエンハンサー領域※3のヒストンのアセチル化※4に使われ、さらにアセチル化ヒストンに結合するBRD4※5が働くことを明らかにしました。老齢マウスにACLYまたはBRD4に対する阻害薬剤を用いたところ、転写因子STAT1※6を介するインターフェロン経路が抑制されて、慢性炎症が抑制されることを見出しました。
この成果では、老化細胞でACLYが炎症性タンパク質の合成?分泌を促進するメカニズムを明らかにしたことから、細胞老化による慢性炎症の制御法(セノスタティクス※7)の開発につながることが期待されます。
本研究成果は、文部科学省科学研究費補助金、文部科学省共同利用?共同研究システム形成事業「学際領域展開ハブ形成プログラム」、熊本大学発生医学研究所の高深度オミクス医学研究拠点ネットワーク形成事業、株式会社村上農園研究経費の支援を受けて、科学雑誌「セル?リポート(Cell Reports)」オンライン版に米国(ET)時間の令和6年7月22日11:00【日本時間の7月23日(火)0:00】に掲載されました。

【用語解説】

※1:ACLY:細胞内でクエン酸からアセチルCoAを合成する代謝酵素で、細胞代謝と遺伝子の働きを調節する。
※2:老化細胞:増殖を持続的に停止した状態の細胞を老化細胞という。体内に蓄積して活発な活動を行うため、細胞死とは異なる。
※3:エンハンサー:ゲノム上の遺伝子の働きを促進するDNA配列。特定の転写因子(DNA結合タンパク質)が結合する。
※4:ヒストンのアセチル化:アセチルCoAを用いてアセチル基転移酵素がヒストンタンパク質を修飾する。近傍の遺伝子の働きを活性化する。
※5:BRD4:アセチル化されたヒストンに結合するタンパク質で、遺伝子の働きを活性化する。
※6:STAT1:細胞がインターフェロンなどの炎症性タンパク質に暴露された場合に働く転写因子。
※7:セノスタティクス:老化細胞は保持して炎症反応を選択的に制御する方法。近年、薬剤によるセノリティクス(老化細胞除去)が注目されるが、老化細胞を除去すると組織の線維化が生じるという報告がある。セノ(老化)+リティクス(分解)、スタティクス(静力学)の造語。

【論文情報】

  • 論文名
    Citrate metabolism controls the senescent microenvironment via the remodeling of pro-inflammatory enhancers
    (クエン酸代謝が炎症性タンパク質遺伝子のエンハンサーを促進して、老化細胞の微小環境を制御する)
  • 著者名(*責任著者)
    Kan Etoh, Hirotaka Araki, Tomoaki Koga, Yuko Hino, Kanji Kuribayashi, Shinjiro Hino, and Mitsuyoshi Nakao*
  • 掲載雑誌
    Cell Reports
  • DOI:https://doi.org/10.1016/j.celrep.2024.114496

【お問い合わせについて】

この研究成果につきましては、熊本大学発生医学研究所細胞医学分野にお問い合わせください。
ご説明する機会を予定させていただきます。

【詳細】 プレスリリース(PDF538KB)

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お問い合わせ

熊本大学発生医学研究所 細胞医学分野
担当:教授 ? 中尾 光善(なかお みつよし)

  ??? 特任助教? 衛藤 貫(えとう かん)
電話:096-373-6804
E-mail:mnakao※gpo.kumamoto-u.ac.jp
(※を@に置き換えてください)